前回の保存料に続き食品添加物シリーズ第5弾、増粘剤について纏めたいと思います。
みなさん、増粘剤についてどのような印象をお持ちですか?
この記事を読んで頂いたあと、ちょっと印象が変わるかも知れませんよ😊
これまでの「食品添加物と健康」シリーズをお読みで無い方、是非過去の記事も合わせてお読みくださいね!
増粘剤
食品に粘性や接着性、弾力性を持たせるための食品添加物。食品の食感やのどごしをよくする働きがあり、とろみをつけたりドレッシングなど多くの食品に使用されています。
増粘安定剤とは、「水に溶解又は分散して粘稠性を生じる高分子物質」のことで「糊料」とも呼ばれます。増粘剤と言っても幾つかの種類に分類されます。
増粘安定剤は使い方によって、少量で高い粘性を示す場合には「増粘剤」、液体のものをゼリー状に固める作用を目的として使う場合には「ゲル化剤」、粘性を高めて食品成分を均一に安定させる効果を目的として使う場合は「安定剤」と呼んで区別されるようです。
増粘剤の種類
増粘剤は多くの種類が存在し、使用する食品や用途、ゼリー状から液体のような物性、機能性など、特徴は多種多様といえます。由来原料もさまざまに渡り、植物由来のもの、微生物発酵によって得られるもの、海藻由来のもの、カルボキシ・メチル・セルロース(CMC・セルロース誘導体)などが存在します。その中でも代表的な増粘剤の原料は、でん粉などを発酵させて作られるキサンタンガム、海藻から抽出されるカラギーナン、マメ科の植物の種から抽出されるグァーガムなどがあります
以下、大まかに特徴を見ていきます。
増粘剤の用途
増粘剤を使用して粘度を調節することで食感を向上させます。以下主な用途です。
・離水や硬化を防止する
・食材に程よく絡むようにする
・具材を分散安定させる
・乳化を安定させる
・懸濁安定化させる
溶液中などに含まれる不溶性成分が長期間、均一に保持する作用(前述乳化の安定に寄与)
ゼリーやプリンのぷるぷるとした食感や、ジャムのとろっとした粘度にはゲル化剤や増粘剤が使用されています。
租借や嚥下に問題がある方の食事提供で、病院や介護高齢者施設で「刻みしょく、ゼリー食、ミキサー食、ソフト食」などでも多く使用されています。
特に高齢者に於いて、食事の際の誤嚥による肺炎は大きな課題です。柔らかくした食材に増粘剤でとろみをつけ、嚥下し易いよう対策が図られています。
こういった「嚥下対策食」は非常に手間が掛かる上、近年調理師不足も重なり、施設での提供が難しくなりつつある。大手食品メーカーは、「半製品・完全調理品」と言うカテゴリ分野で販売を拡大していますが、あれもこれも工場製品ばかり、何か寂しくありますよね。
余談
以前、私が勤めていた某大手の食品メーカー(主に添加物)に紹介頂いた製品(魔法の粉)で、水に溶かせて麺に絡めるだけで、「一日経っても麺同士がくっつかない」と言う驚きの商品がありました。
サンプルを貰い早速自宅で、粘着性の強い「ビーフンや春雨」を用いて試したのですが、無味無臭の「魔法の粉」を使用すると長時間まったくくっつかなくなりました。(本当にびっくりしたのを覚えています)
メーカーに開発秘話を聞きましたが、某コンビニの製品開発担当者より、総菜や弁当で麺を使用したいが、くっつかない様にできないか?と相談を受けて開発に至ったとのこと。なるほど、納得。確かその商品も名目は食品添加物で、海藻由来だったと記憶しています。
キサンタンガム
キサンタンガムは、キャベツから発見されたバクテリア、キサントモナス・カンペストリスが自らの周囲に保護層を形成するために分泌する高分子量の多糖類(ブドウ糖、マルトースなどの単糖が複数結合した物質)です。工業的には、同じバクテリアを使用し、トウモロコシ由来の澱粉をバクテリアの栄養源として醗酵させることにより生産されています。
キサンタンガムの食品添加物としての歴史は、1969年のFDA(アメリカ食品医薬品局)の認可に始まり、1980年にはEC(現在のEUの前身である欧州諸共同体)が認可。さらに、1988年には、生涯にわたり毎日摂取しても健康に影響を与えない一日許容摂取量が「制限なし」と改定されました。このような国際的な評価に準じて日本でも安全な天然添加物として普及し、1995年の改正食品衛生法によって定められた「既存添加物」(長年使用されてきた天然添加物)のリストに登録されました。
現在、歯磨き・ローション・シャンプーなどの日用品、医薬品をはじめとして各種工業原料にも多用されていますが、食品添加物としての食品への使用も多岐にわたり、粘り・とろみを付ける増粘剤や、水と油のように分離しやすいものを分離しにくくする安定剤として広く使用されます。また、料理にとろみを付ける調理素材として一般消費者向けにも販売されています。なお、加工食品の原材料名欄には、一般に増粘剤(キサンタン)、安定剤(キサンタン)と表記され、他の増粘安定剤を併用している場合には一括して増粘多糖類と表記されています。
特徴と役割
キサンタンガムは、非常に高い粘度を持ち、水に溶けるとゲル状の物質を形成します。この特性により、さまざまな食品のテクスチャーを改善し、品質を確保維持。さらに、pHや温度に対する安定性が高く、さまざまな環境でその効果を発揮する。
使用例
キサンタンガムは、以下のような食品や製品に広く利用されています。
- ドレッシングやソース:とろみを加えることで、味が均一に絡むようになる。
- アイスクリーム:クリーミーな食感を保つため、氷の結晶ができにくくする。
- パンやベーカリー製品:しっとり感を出し、食感を向上させます。
- グルテンフリー食品:小麦粉の代わりに使用され、食感を改善し、構造をサポートする。
健康への影響
キサンタンガムは食物繊維としても知られ、腸内環境の改善に寄与すると言われ、一方物由来ではないため、通常では摂取しない出来ない食品添加物です。健康リスクはほとんど無いと見なされており、大量に摂取すると消化不良を引き起こすこともあるようですが、今まで見てきた食品添加物中最も健康リスクの低いものでした。
参考資料
キサンタンガム(E 415)の食品添加物としての再評価 – PMC (nih.gov)
カラギーナン
カラギーナンは、海藻から抽出される天然の多糖類の一種で、主に食材や食品のテクスチャーを改善するために使用されています。特に、紅藻類から得られるこの成分は、食物のゲル化や増粘剤、乳化剤として広く利用されています。寒天などと同様ですね。
カラギーナンの種類
カラギーナンには、主に3つの種類があります。
- Kappaカラギーナン:このタイプはゲル形成能が高く、ゼリーのような食感を持つ食品に最適です。牛乳やクリームとの相性が良く、デザートや乳製品に使用される。
- Iotaカラギーナン:このタイプは、Kappaカラギーナンに比べて柔らかいゲルを形成します。特に冷えた状態でも安定するため、冷たいデザートや乳製品に適している。
- Lambdaカラギーナン:このタイプはゲルを形成せず、主に増粘剤として使用されます。スープやソース、飲料の質感を向上させるのに役立ちます。
使用される主な食品
カラギーナンは、アイスクリーム、ヨーグルト、ソース、ゼリー、さらには即席食品や冷凍食品など、さまざまな食品に使われています。また、食品以外でも、化粧品や医療品、製薬業界などでもその特性が活かされているようです。
健康への影響
カラギーナンは一般には安全とされていますが、一部の研究においては消化器系に影響を与える可能性が指摘されています。ただし、通常の食事で適量を摂取する限り、大きな健康リスクはないと考えられています。また、腸内細菌叢の調整にも役立てている、以上までが一般的な理解(大手食品会社も含め)だと思います。
日本語で安全性に関する学術資料を探そうとすると、リスクを訴える内容のものは殆どヒットしませんが、英文で検索すると沢山の資料が存在しているんですよね。
そこで書かれたいたことはグルテンの問題と同様、腸内に於いて炎症を直接的に誘発することです。
全ての人が同様の高いリスクがある訳ではなく、クローン病や潰瘍性大腸炎を患う方は特に注意が必要だということ。
カラギーナンは腸の中のバランスを変えたり、腸の壁を弱くしたりすることがあり、炎症が起こしたり悪化させる可能性があるようです。具体的には、体の免疫システムに影響を与え、炎症を引き起こす物質を増加させるようです。また、カラギーナンは腸の中の特定のバクテリアを増やしたり、短鎖脂肪酸を作るバクテリアの数を減らしたりする。つまり、腸の健康に悪い影響を与える可能性を知っておく必要がありそうです。
とは言え、生きていく上で必須ミネラルの塩分であっても、過剰摂取は毒ですよね。シュウ酸を含むほうれん草も然り。
添加物は注意を払わなければ、どこで、どのような期間で、どれだけの量を摂取しているか把握し辛くあります。その点は留意する必要があると考えます。
参考資料
Food Additive Guar Gum Aggravates Colonic Inflammation in Experimental Models of Inflammatory Bowel Disease
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38732613/
グァーガム
インドやパキスタンに自生するグアー豆(グア豆)から抽出される天然の多糖類で、特に増粘剤や乳化剤としての役割を果たす。
特徴と役割
グアーガムは、優れた増粘能力を持つため、多くの食品に使用されています。すぐに水で溶ける特性を生かし、食材のテクスチャーを改善。特に低カロリーでありながら粘度が高いことから、ダイエット食品などに使用されることが多い。
使用例
グアーガムは、以下のような食品に利用されています。
- アイスクリーム:クリーミーな食感を実現し、氷の結晶ができにくくする。
- ソース:とろみを与え、食感を向上させます。
- パンや焼き菓子:生地の保水性を高め、しっとり感を持たせる。
- 乳製品:ヨーグルトやチーズ製品の粘度を調整。
健康への影響
グアーガムは食物繊維が豊富であり、消化を助ける役割を果たすことから、腸の健康にも寄与。非常に膨張するため、摂取量は注意が必要とされています。
更に、カラギーナンと同様に腸内炎症を伴う疾患を持つ人は、悪化させる可能性が動物実験により明らかになっています。(あくまで動物実験レベルですが)
これは、小麦特有のグルテン(グルテニンとグリアジンが結合)も同様の指摘がされていますが、腸内の粘液(防御層)を絡みとってしまい、無防備なった所で炎症の誘発や悪化を招く恐れがある、と言うことでしょう。
Food Additive Guar Gum Aggravates Colonic Inflammation in Experimental Models of Inflammatory Bowel Disease
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8180737/
カルボキシ・メチル・セルロース(表記:CMC)
カルボキシメチルセルロース(別名:カルメロース、Carmellose)<以下CMC>は、主に木材パルプの成分であるセルロースをクロロ酢酸の反応により合成されて作られる化学物質。
粘土が高く、毒性やアレルギー性も含まず安全性は高いとされています。
使用例
食品科学の分野では、増粘剤や乳化安定剤として使用されます。アイスクリームなどで増粘剤として利用されています。
CMCは比較的安価で、K-Yゼリーや歯磨剤、下剤、ダイエット用錠剤、水性インク、界面活性剤、紙製品などの非食品製品にも使用されています。
粘度が高く、毒性を持たず、通常はアレルギー性がないため、点眼液(人工涙液)の潤滑剤としても使用されているようですね。
健康への影響
CMCは安全だから沢山使用しても良い、とはなっていないようです。厚生労働省は、CMCを食品中の2%以下で使用基準を設けています。繰り返しになりますが、砂糖でも塩でも同様に使用しすぎ(過剰摂取)は毒ですよね。ただ、使用基準を設けている理由になるか分かりませんが、学術資料「The Role of Carrageenan and Carboxymethylcellulose in the Development of Intestinal Inflammation」の中で、動物モデルに於ける研究でかなり厳しい結果を報告しています
他の増粘剤と同様に、腸内に於ける粘液防御層(バリア)を絡め取り(破壊)し、更に腸内細菌叢を歪める可能性と、それに誘発される様々な健康リスクを指摘しています。以下、引用いたします。
The Role of Carrageenan and Carboxymethylcellulose in the Development of Intestinal Inflammationより
結論
動物モデルに投与されたカラギーナンとCMCは、一貫してヒトのIBDに類似した組織病理学的特徴を示す腸潰瘍を引き起こす。これらの乳化剤が病変と炎症を誘発する正確なメカニズムはまだ不明であるが、上皮バリアの破壊と腸内微生物叢に対する免疫応答の調節不全が繰り返し関与していることが示唆されている。カラギーナンとCMCは小児人口が消費する加工食品に広く使用されており、小児IBD(小児炎症性腸疾患)の発症率は西洋食の採用増加と同時に増加しているため、これらの知見は懸念を引き起こしている。CD(クローン病)の寛解を誘発した唯一の成功した食事介入は、カラギーナンとCMCを含む加工食品を除外することであり、カラギーナンとCMCがIBDの炎症の潜在的な誘発物質または増強物質である可能性をさらに裏付けている。腸の炎症の微生物叢の変化におけるカラギーナンとCMCの役割を明らかにするとともに、食物繊維の摂取との複雑な相互作用をより深く理解するためのさらなる研究が必要であり、そのような研究は、IBDの発症を予防したり、寛解を誘発して維持したりするのに役立つ新しい栄養戦略につながる可能性があります。
https://www.frontiersin.org/journals/pediatrics/articles/10.3389/fped.2017.00096/full?ref=inflectionpoint.nwo.ai
まとめ
これまで見てきた通り、増粘剤の原料は主に海藻などの食物繊維であるため、腸内細菌叢(腸内フローラ)の改善が見込めます。また通常の食事がままならない嚥下障害の方に対し、とろみ剤など多く使用されており、医療関係者や福祉施設に於いてなくてはならない添加物でもあります。
一方で、腸内の免疫システムに影響を与えたり、バリア(粘液)を無効化弱体化することで、腸壁の炎症化及び悪化促す心配もあり、やはりリスクが存在します。
使用制限されるものもあるので、健常者であれば他の添加物同様に敢えて摂取する必要は無いと考えます。
既製品のドレッシング、ソースやタレ類、無添加品じゃ無い限りほぼ増粘剤を使用しています。
ということは、摂取頻度は非常に高い、と言えるわけでそれをコントロールすることなどほぼ不可能でしょう。
少し考えてみてください。例えばドレッシングに粘性が必要でしょうか?確かにとろみが付いている方が、野菜と良くなじむので少量で済む、と言うメリットがあるでしょう。しかし、必ずしも必要では無いかも知れませんよね。
伊和香で人気のキャロットドレッシングは当然のこと無添加、油脂は純国産米油を使用しており、十分なトロミがありよく野菜になじみます。
通常外食すると、無添加のお店でない限り、一度に多種多量の添加物を摂取していることでしょう。自動販売機でドリンクを買っても、スーパーで豆腐を買っても9割以上多数の添加物が使用されていますし。そのような環境下で、摂取の制御は出来るのでしょうか。恐らくほぼ不可能。
病気になったら「運」が悪かっただけ?そうでは無いですよね。私達は皆変わりなく、食べ物を摂取して日々生きています。病気になるのも、健康でいられるのも、偏に食事からだと私は考えます。
ならばこそ、単に食欲を満たすだけではなく、日々の食事を大切にするべきだと思いますが、皆さんはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました!
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